藤前干潟の辻さん初の著書

 藤前干潟の保全に尽力した環境活動家、辻淳夫さんがこれまでの歩みを初めて一冊にまとめた著書『ちどりの叫び、しぎの夢』(東銀座出版社、定価1,700円)が出版されました。

 辻さんは名城大学理工学部数学科の助手を務めながら干潟や湿地の保全活動に奔走。藤前干潟を守る市民運動では先頭に立って国や市と交渉を重ねました。本書では、埋め立て断念を決めかねる当時の松原武久市長とのやりとりや、ラムサール条約登録に向けた動き、「藤前干潟を守る会」と各地の環境保全団体との連携などが記録されています。その上で、辻さんは「環境問題に勝者とか敗者の区別はないと思います。自然の恵みを享受するのも、生存基盤を壊されて苦しむのも、この地球に生まれついた私たち自身を含む全ての生命なのですから」と訴えるのです。

 一昨年、ラムサール登録から10年の節目に合わせて出版の企画が持ち上がりましたが、辻さん自身は病気療養中で会話もままならないため、旧知の仲で日本湿地ネットワーク事務局長の伊藤昌尚さんが編者として過去の寄稿文などをまとめました。「辻さんのおだやかで粘り強い人柄、『干潟の学校』などの分かりやすいネーミングを生み出す柔軟な発想が運動を成功させました。関係者はもちろん、環境問題にかかわりのなかった人も手にとって、次に伝えてほしい」と伊藤さんは話しています。