この春、息子が新1年生になりました。これから6年間、お世話になる小学校は海抜10㍍の高さにあり、広域避難場所に指定されています。
もしものとき、私たちの命を守る公共の建物。2011年の東日本大震災や昨年4月の熊本地震では、災害時の拠点となるべき庁舎などが大きな被害を受けて、混乱が広がりました。防災、環境イベントで話を聞くことが多い名古屋大学減災連携研究センター長の福和伸夫教授も「庁舎や教育施設は十分な安全性を確保しておかなくてはならない」といつも話しておられます。
地震の揺れに加えて、津波や浸水の恐ろしさを目の当たりにした日本に住む私たちです。港区にある富士文化幼稚園が、耐震性の強化や約1㍍のかさ上げを目的に園舎の建て替えを始めたとのことで、話を聞いてきました。
この園の子どもたちは、毎年バケツ稲を育てるなど、環境や生きものと親しんでいます。近所の人も気軽にお茶を飲みに訪れたり、土日はお年寄りが民謡教室のために遊戯室を借りたりと、普段から開放的。町内の夏祭りもここで開かれます。
そんな園を建て替えるにあたり、関係者は東京都立川市にある「ふじようちえん」を参考にしました。
その園舎の形は、丸いドーナツ状。屋根は屋上運動場となっていて、子どもたちがぐるぐると走り回ります。設計したのは建築家の手塚貴晴さん、由比さん夫妻。斬新なアイデアとデザインで世界的に注目され、代表作であるこの園には国内外から見学者が訪れています。
「園舎全体を巨大な遊具にする」というそのコンセプトに共感した富士文化幼稚園運営法人の笹野大栄(ともえ)さんが、手塚さん夫妻に新園舎の設計を依頼しました。
「私自身も、子どものころに木登りが大好きでした」という笹野さん。かさ上げをしながらも、現存する木を残すことで木に飛び移ったり、屋根の上からの景色を楽しんだりできないかと提案。また、町のモニュメントとなるものをつくりたいとも伝えました。
そうした思いを形にした手塚さん夫妻の設計。土地の形状の関係で、丸い園舎ではなく、四角い建物をつないだ形になりましたが、屋上は走り回れます! 屋根からつるされたブランコに揺られ、柱についている丸カンにぶら下がれ、もちろん木登りもOK。「雨垂れさえも楽しく、びしょびしょに濡れても楽しい園」になるそうです。
地域の人に使ってもらうため、遊戯室は音響設備を完備し、ステージからは畳敷きの花道が伸びるという、和の出し物にも対応できる多目的ホールになりました。災害時には避難や救助の拠点にもなることでしょう。
防災というと後ろ向きなイメージもありますが、それを思いっきり前向きに転換して、子どもたちと地域の未来が描かれています。新園舎は来年4月に完成予定です。
ふかや・りな 岐阜県多治見市出身、名古屋芸術大学声楽科卒業後、1996年から東海ラジオアナウンサーなど。毎週月〜金16:00〜17:45に「山浦・深谷のヨヂカラ!」を担当。本コラムをラジオでお届けするコーナー「エコヂカラ」は5月31日(水)17:17ごろからの予定!