おうち、といっても人が住む家ではありません。あなたのとっておきを入れる宝箱。名づけて「おうち宝箱」を作る藤居(ふじい)奈菜江さん(岐阜県土岐市)の自宅兼アトリエにうかがいました。
縁側のある古い日本家屋。本宅に続く3間が藤居さんと夫の 中村崇心(たかし)さんのアトリエ、大きなガス釜のある工房となっています。それぞれ陶芸家であるお2人は7年前、もともと陶芸家が住み、釜も設置されていたこの家にアトリエを構えました。
藤居さんの作品はコロンとしたまあるい形の茶碗や花瓶など、おとぎ話に出てくるようなかわいらしさが特徴。白、黄、茶、ねずみと、色合いの異なる土をあわせた色のグラデーションがユーモラスな表情を加えています。
粘土は絵の具のパレットのようにたくさんの色があるそうです。しかし、土の種類が違えば収縮率も違うため、焼成するときに割れや切れ目ができることがあります。しかし、藤居さんはそれをうまく解決して、さまざまな土を組み合わせる「練り込み」という技法で作品をつくっています。この斬新な手法、藤居さんいわく「知識がないから感覚でできちゃう!」そうです。
滋賀県に生まれ、大学で彫塑を学んだ藤居さん。卒業後は美容院やホテルなどで働いていましたが、やはり焼き物を学びたいと京都の陶芸専門学校へ。さらに多治見市の有名な陶芸家「ギャルリ百草」の安藤雅信さんに師事することが決まり、実技の世界に飛び込みます。
15年ほど前、陶芸の世界はまだまだ男社会。絵付けはやらせてもらえても、ろくろを回すことは許されない、そんな雰囲気がありました。しかし、女性が製作の現場に携われる貴重な機会だと、藤居さんは百草で作陶に没頭する日々。そんな中、リフレッシュのためにつくった自分の作品をクラフトフェアに出品したら、学生さんが「かわいい!」と言っておこづかいで買ってくれました。そこから本格的な作家の道に進むことを決意しましたが、結果的に陶芸の専門的な勉強は途中に。しかし、だからこそ既成概念にとらわれないオリジナルな世界が築けたんですね。
冒頭の「おうち宝箱」はすべて手づくり。丸めた粘土をたたいて形をつくり、窓は割りばしを使ってちょんちょんと…。上に乗った屋根は木工作家とのコラボレーション。家具づくりで余った端材を再利用して、おうちに合わせて削ってもらいます。
この屋根を開けると、中にはきらきらと輝くガラスが敷き詰められていて、まさに宝を見つけた気分! ガラスは、ガラス作家の義弟の工房から出た廃ガラスを再利用。捨てられてしまうものを上手に生かしています。女性らしい丸みを帯びた作品たち。手に乗せると、優しい気持ちになるようです。
器は西区の「カフェギャラリーhagi」(TEL 052-501-7134)、おうち宝箱は「DO LIVING ISSEIDO星が丘テラス店」(TEL 052-783-8828)で扱いあり。
ふかや・りな 岐阜県多治見市出身、名古屋芸術大学声楽科卒業後、1996年から東海ラジオアナウンサーなど。毎週月〜金16:00〜17:45に「山浦・深谷のヨヂカラ!」を担当。本コラムをラジオでお届けするコーナー「エコヂカラ」は8月9日(水)17:17ごろからの予定!