普段、何気なくいただいている和食。日本料理といっても、今は食材も豊富で創作料理が主流となっています。でも、すべての日本料理の元となるのは平安時代から続く「四條流」という料理法なのです。
魚や野菜の切り方から、だしのとり方までを細かく取り決めしたもので、もともとは平安朝時代の宮廷などで来客へのもてなしとして包丁さばきを見せたのが始まり。平安時代の四条中納言藤原山陰が光孝天皇の命を受け、作法を定めたところに由来します。
そこからさまざまな流派に分かれ、それぞれの料理人たちは公家や武家の料理番を務め、今に至っています。日本料理の道を志す人が調理師学校で習う作法や技術、すべてがこの四條流から派生しているといっても過言ではないそうです。
その四條流包丁式師範であり、副頭取という要職にある料理人、崎(さき)正美さんのお店が緑区・有松の旧東海道にある日本料理「やまと」です。
伝統工芸、有松絞りの問屋として13代続いた神谷半太郎の旧家を改装した日本料亭。名鉄「有松」駅から歩いて3分と便利な場所にありながら、ひんやりとした静かな空気に包まれ、落ち着いた雰囲気です。
崎さんは恵那峡グランドホテルの料理長など、料理人一筋に生きてきた方。その料理の礎となる四條流包丁式を知り「料理をもっと追求したい、その原点を知りたい!」と師範の門をたたきました。
包丁式は、かつて宮中で行われていました。現代は寺社の奉納儀式として行われるので、ニュース映像で目にしたことがあるかもしれません。最近では伊勢神宮の式年遷宮で奉納され、毎年1月12日には東京・東上野の坂東報恩寺で「まないた開き」の儀式が執り行われています。
烏帽子(えぼし)と直垂(ひたたれ)をまとった師範が、大きなまな板の上で鯉や鯛をさばきます。この切り方にも決まりがあり、直接手を触れてはいけないので、はしと包丁のみで切り分けていくのです。
実のところ、四條流の技術を学んだからといって給料が上がるわけではないそうです…。それでも「歴史と伝統を受け継いでいく流派の先輩たちの男気にほれた」という崎さん。現在の16代家元は半田市の入口修三さんで、東海地方の日本料理も機運が盛り上がるかもしれません。
「やまと」の料理は一つ一つが美しく盛り付けられ、茶碗蒸しのシイタケも別にしっかりと煮含められたものであるなど、丁寧に手がかけられています。包丁などの道具は大事に使い込まれ、伝統的な素材が生かされ、料理人の技やこだわりはこうして残されていくんですね。
そんな「おもい」のこもった料理を楽しめるひとときを、歴史ある建物の中でゆっくり味わってみてください。
ふかや・りな 岐阜県多治見市出身、名古屋芸術大学声楽科卒業後、1996年から東海ラジオアナウンサーなど。毎週月〜金16:00〜17:45に「山浦・深谷のヨヂカラ!」を担当。本コラムをラジオでお届けするコーナー「エコヂカラ」は8月30日(水)17:17ごろからの予定!