今年の夏の暑さは尋常じゃなかったですが、その分、冷たくした緑茶が一番のどを潤すと発見した夏でもありました。
急須にお茶を入れて飲む、というふだんの生活の中にある何気ない風景。今はペットボトルや緑茶パックといった便利なものがあり、緑茶が身近にあふれる一方、自分で茶葉を急須に入れて飲むという機会はずいぶん減っています。急須が家にない、というお宅も多いようです。
しかし、茶葉の種類や量、いれるお湯の温度で味がまったく違うお茶。普通に飲んでいるお茶がこんなにおいしかったのか…という感動は、急須でいれて初めて味わえるものではないでしょうか。
そんな「急須とお茶」の魅力に気付いたのは、煎茶道・売茶(ばいさ)流家元、友仙窟(ゆうせんくつ)こと高取芳樹さんとの出会いがきっかけでした。
煎茶道は江戸時代、大名や武士の文化だった茶道に対して、形式的ではない、武士のアウトローな精神を生かしたお茶の文化として一般に支持されました。その文化は尾張、三河地方にも伝わり、知立市八橋のカキツバタの名所、無量寺で八橋売茶翁が開いた売茶流を、大正時代からは名古屋市昭和区の浄元寺で受け継いでいます。
その4代目となる家元が高取さん。長い伝統を誇り、公称1万人の門徒を抱える流派ですが、家元は新しい試みにも前向き。例えば、自身が旅行に出かけた先で見つけた器を茶会で花入れに使い、その話で楽しいひとときを過ごしたり、現代の作家物の作品をどのように使おうか、新しい使い方を模索したりも。「しつらえ道具で茶会のストーリーを考える、そこが楽しい」と高取さん。お弟子さんも、家元のおかげで新しい器や使い方、作家を知り、自分も使ってみようと思えるのが楽しみだと語っていました。
日常つかう急須は、かけたり割れたりして捨てられてしまいます。しかし、家元はたくさんの古い急須を残しています。その一部が、9月29日(土)まで常滑市のINAXライブミュージアムで開催中の「急須でお茶を 宜興(ぎこう)・常滑・香味甘美」という展覧会に出品されています。全体のテーマは、中国の宜興地方でつくられた急須が、ヨーロッパを経て常滑の朱泥でつくられ、日本茶のシンボルになるまでの歴史。その中で、家元の急須は煎茶の文化をしっかりと伝えています。「生活の中ではモノは残らない、文化であるから残ってゆく」。この言葉が重くしみてきました。
売茶流は文化センターなどの身近な教室があります。お茶とお菓子を楽しむこと自体は日常ですが、茶室という空間で味わうことで非日常の経験になります。「テーマパークに出かけるように楽しんでほしい」との家元の言葉が印象的でした。
・煎茶道・売茶流 TEL 052-881-8640
ふかや・りな 岐阜県多治見市出身、名古屋芸術大学声楽科卒業後、1996年から東海ラジオアナウンサーなど。毎週月〜金16:00〜17:45に「山浦・深谷のヨヂカラ!」を担当。本コラムをラジオでお届けするコーナー「エコヂカラ」は2018年10月3日(水)17:17ごろからの予定!